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ケラリーノ・サンドロヴィッチ 舞台 ドクター・ホフマンのサナトリウム 〜カフカ第4の長編〜 感想

イベント・エンタメ
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KAAT(神奈川芸術劇場)で公演していたケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出のドクター・ホフマンのサナトリウム 〜カフカ第4の長編〜を見てきました。

舞台で演じている瀬戸くんを一度は見てみたいというので、観劇したのですが、想像以上の世界でした。

ここでは主に舞台を見た感想を瀬戸くん中心にまとめます。


ドクター・ホフマンのサナトリウム 〜カフカ第4の長編〜の情報

【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【振付】小野寺修二
【映像】上田大樹
【音楽】鈴木光介
【出演】 多部未華子 瀬戸康史 音尾琢真 大倉孝二 村川絵梨 谷川昭一朗 武谷公雄 吉増裕士 菊池明明 伊与勢我無 犬山イヌコ 緒川たまき 渡辺いっけい 麻実れい 王下貴司 菅彩美 斉藤悠 仁科幸
【演奏】 鈴木光介(Tp)  向島ゆり子/高橋香織(Vn) 伏見蛍(Gt)  関根真理(Per)

近頃発見されて話題となった、フランツ・カフカの長編小説の遺稿。これをすかさず舞台化しようという企みが、この度の公演である。困難な上演になるだろう。なにしろ、そんな遺稿なんて見つかってないのだから。
カフカ(1883〜1924)は、お馴染みの『変身』をはじめとした数々の短編小説と、『失踪者(アメリカ)』、『審判』、『城』の3本の未完の長編小説(『審判』は途中が欠落、他の2作は文字通りの未完)を遺し、親友の編集者マックス・ブロートに「遺稿は全て焼き捨ててほしい」と言い遺して天に旅立った。死因は、当時まだ不治の病だった結核。マックスは約束を反故にし、焼き捨てるどころか、全集を出版した。ひどい話だが、そのおかげで今、我々はカフカの、カフカにしか書けない小説を、幾度でも読むことができる。そして、死後100年近くを経ての、新たな長編原稿の発掘。発掘されてないのだけれど。
発掘されてない以上読めるはずがない。故に私はまだこの小説を未読だ。きっと前例に漏れず、欠損だらけだろうと憶測する。ラストシーンはあるのだろうか。全体がないのだからあるわけがないが。
「ドクター・ホフマンのサナトリウム」というのは、彼が最後の数ヶ月を過ごした療養所である。ということは、『城』のあとに書かれたのだろう。書かれてないのだけれど。「 カフカ第4の長編」は、まだ見ぬ「カフカ最後の長編」だ。人生の終焉を見つめ、それまでにない「新しいカフカ」が見つかるやも知れぬ。困難な公演だ。せめて遺稿が見つかっていればもう少し楽だろうに。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ

https://www.kaat.jp/d/DrHoffman

公演スケジュール

神奈川芸術劇場 2019年11月07日~2019年11月24日
兵庫県立芸術文化センター 2019年11月28日,29日,30日,12月1日
北九州芸術劇場 2019年12月14日〜2019年12月15日
穂の国とよはし芸術劇場 2019年12月20日~2019年12月22日

 

 

現代、過去、小説の世界がマーブルのように混ざるなんとも言えない感覚になる話

この舞台の話は主に3つの場面から。

冒頭でのきっかけとなるカフカ未完の小説の話
未完小説を発見した現代の話
現代での話が過去にタイムスリップしたときの話

 

他によくわかりにくかったのが、過去にタイムスリップしたはずなのに未完小説の中に組み込まれてしまっていた話もあります。

カフカ未完の小説の話のあらすじ

カーヤとラバンはある旅行へ行く途中だった。
いつか結婚したら2年、3年に一度は旅行に行こうと計画を話すラバン。
将来の話のことで盛り上がる二人。
その途中ふとカーヤが見た夢の緑のコマの話になった。コマが止まらないまま風に巻き込まれて消えた同級生の話を思い出したカーヤ。
そして、なぜかラバンが同じように風に巻き込まれ消えてしまう。
消息を追うカーヤの先で起きた出来事とは。

現代パートの話のあらすじ

2019年のある家の一室。カフカの遺稿を発見したブロッボは借金返済のために、出版社へカフカの遺稿を売ろうとしていた。
出版社へ出したはずの手紙の返事が一向に帰って来ず、再度手紙を出そうとしていたブロッボ。
後から判明するのだが、ブロッボの友人が内緒で出版社からの返事は自分の家に届けるように、実は郵便屋を買収していた。
しびれを切らしたブロッボは出版社へ直接出向かい、出版の契約を取り付けられたのだったが、気が付いたら過去にブロッボと友人ともに迷い込んでいた。

過去パートの話のあらすじ

現代パートからそのまま過去に移動してしまったブロッボと友人。
ひょんなことから、幼い時代のブロッボの祖母に会うが、祖母に落とした人形を返してしまったため、カフカが幼い時代の祖母に手紙を書くという歴史を書き換えてしまい、慌ててカフカのもとを訪ねることに。
そこで、カフカに遺稿に書かれていた小説の中身を話してしまったが。

 

各パートが混ざることで異空間にいる感覚に

劇冒頭はカーヤとラバンのシーンから始まりますが、脚本の区切りで現代パートに話が移り、また現代パートから遺稿パートへ移りを繰り返します。

そして遺稿パートから、現代パートだったのが過去パートに移ると、同じようにパートを行ったり来たりしてそれぞれの時間軸の話が進んでいきます。

最後には、過去パートだったところに、なぜか遺稿パートに食い込んでしまい、一体それはどの設定だったんだろうという、よくわからない袋小路に入ってしまったような場面もありました。

それぞれの時間軸の中での話が展開されていくのですが、カフカの中にあるものとして「不条理」という言葉がこの劇の大部分を占めていました。

1行前で話していたことが、次の行では書き換わっている。
そしてそれが正しいものとして話が進んでいく。
さっきまでの前提が覆されて話が進んでいるのに、おかしいとさえ思わないような会話の展開。

グレーテ「この家に火をつけてやるわ」
カーヤ「そんなことをしたら、あの人は死んでしまいますよ」
グレーテ「私は家に火をつけるだけだから、死ぬとは限らないでしょう」
カーヤ「そうですね。それなら火をつけてしまいましょう」

さっきまでいけないといっていたカーヤの言葉がいつのまにか上書きされている、この感情。

こういった会話がテンポよく進んでいくので、意識しないとおかしいということさえわからないまま飲み込まれる世界になっています。

 

瀬戸康史は4役+αで出演

+αについては、役名がないのと、観劇したのがほぼ後ろだったため、演者の顔が判別できないため認識していません。
パンフレット情報やネットの情報から、観劇した日には3役ほどやっていたそうです。

メイン4役は、

ラバン
ガザ
出版社の編集者
カフカ

なのですが、ラバンとガザは遺稿に出てくる双子の兄弟です。

今まで同時に他の役をやる演技を見たことがなかったので、これは楽しみでした。

それぞれの性格や振る舞いですが

ラバン・・・カーヤの婚約者でとても思いやりのある優しい青年
ガザ・・・ラバンの双子の弟。顔はラバンにそっくりだが、粗暴で暴力的
出版社の編集者・・・ブロッボが遺稿の出版をお願いしていた編集者。紳士的で相手の状況をくみ取ってくれる
カフカ・・・95年後から来たブロッボのことも驚きもせずに受け止め、また何事にも動じない強さがある

というのでそれぞれ違うタイプ。

動きもそれぞれ異なるのですが、わかりやすかったのが声です。

ラバン・・・いつもの瀬戸くんの声
ガザ・・・何か誘いをかけるような声と激高した声
出版社の編集者・・・声のトーンが高めのビジネスマン風
カフカ・・・4人のなかでは声が一番低い

わりと聞いたことがあるのが、ラバンと出版社の編集者。
編集者は雰囲気からして、まんぷくの神部さんみたいな感じでした。

カフカのときの声が、すごく低かったのですが、もともと低い声がさらに低い感じ。

この4役の中で、最も魅力的に感じたのがガザです。

ラバンが優しい青年なのに、同じ双子でも粗暴で暴力的で自分勝手で女好き。

ガザが登場するのは双子が住んでいる家なのですが、ベッドの上で布団にくるまって寝たままの状態から。
顔に布団をかぶせているので素足が見えているのですが、その足だけでも美しい。
布団で顔が見えない分、足元に目が行ってしまい、素足のため土踏まずが見えるんですが、そのアーチがとてもきれい。

テレビなどで見る姿では、そういったところを目にする機会がなく、動かないままその場にいるというのを全て見ることができるので、この体験は貴重でした。

衣装は現代でいうストレッチパンツだけで上半身裸。
性格が粗暴なので、この衣装ですら野性味むき出しなところがいいです。

母親と言い争うシーンはセリフの汚さもあって、そんなこと言っちゃうの?とおかしくなる部分もあれば、カーヤに言い寄ろうとして粗暴な状態のままかわいらしい雰囲気を見せるところも。

逆にガザの家にいる小間使いは彼の恋人でもあるかのように見えるのですが、カーヤにお茶を出させたあげく、小間使いの入れたお茶をガザが飲もうとしたときに、お茶の熱さに怒り、小間使いに中身を投げつけるといった激しさもありました。

常々、狂ったような悪意に満ちているのに、絶対的に美しくて、その美しさだけで悪を許せてしまうんじゃないかという役を瀬戸くんにはやってほしいと思っているのですが、ガザがまさにその状態に近かったです。

 

渡辺さんと大倉さんの掛け合いが面白い

この舞台で面白さの中心を作っていたのが渡辺さん演じるブロッボとブロッボの友人を演じる大倉さん。

会話のテンポが軽快なのと、ボケとツッコミで漫才しているんじゃないか?っていうくらいの流れなので、見ていて飽きませんでした。

面白いところが満載すぎて、常に面白かったとしか言いようがありません。

これは脚本が面白かったから、あの会話が舞台で展開されていたのだと思いますが、演じている二人の呼吸がぴったりあっているからこそのノリだったと思います。

 

上演時間3時間半休憩15分があっという間

他の出演者の方々も個性的で、それぞれが際立っていたと思います。

見ていて、一人一人の個性がうまく合わさって全部ができているんだという世界観がありました。

そして、出てくる人達全員が何かしら不条理な状態で、でもそれが普通のように見えてしまう。

楽しいとか面白いとか、つらいとか悲しいとか全部をまとめたものを表したら、こういう世界なのかもしれないと思わされてしまうくらい。

舞台の上で展開されるプロジェクションマッピングと生演奏で場面の雰囲気を作ってくるところも、臨場感がすごくて世界に引き込まれます。

 

上演時間が3時間半という比較的長い部類に入ると思いますが、各パートがそれぞれにあるので、全体的には短く感じてしまう内容でした。

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